Bruno Vander Velde
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By Arild Angelsen
国際林業研究センター・シニアアソシエート/ノルウェー生命科学大学教授
REDDにはどのくらいのコストがかかるか?少なくとも、あの影響力のある「スターン報告」が2006年に発表されて以来、REDD(森林減少と森林劣化による排出の削減)は気候変動緩和のための最も安価な選択であると、多くの人が主張するようになった。その他の人たちは、REDDのメカニズムは、世界の森林居住者と気候に対して予期せぬ結果を招く、コストのかかる努力であるとみている。どちらが正しいのであろうか?
「REDDのコストはいくらか?」という問いは、「車のコストはいくらか?」という問いと同じぐらいの厳密さしかない。それは、車種、車の台数、言及しているコストが、生産費なのか、購入費なのか、あるいは、運転費なのか、などにより全く異なってくる。「スターン報告」を含む大抵のREDDコスト評価は機会費用に焦点を当てている。それはつまり、別の最良の土地利用なら得られていた利益、すなわち森林を保全しなければ得られていた遺失利益である。これには、農業収益だけではなく木材、炭、そして森林を劣化させる方法で収穫される他の産物から得られる収益を含む。また、REDDを実施する国は、REDDシステムを立ち上げるためのコストや、REDDの達成に必要な政策の実施にかかる費用など、取引費用や実施費用にも直面する。それゆえ、機会費用、実施費用 (機会費用を直接補償するコストを除く)、取引費用(政府機関および森林利用者に対する)の和が、森林減少と森林劣化を回避する国が負う、正味のコストである。
しかし、REDDを行う国々の政府は、この問題とは少し異なる次の問題にも同様に関心を抱いている。すなわち、REDDのプロジェクト実施コストがいくらか、という問題である。機会費用は、選択される政策とその政策の実効性に左右されるため、REDDのプロジェクト実施コストを示すのには、欠陥を持った指標になり得る。ただひとつの特別なケース、つまり、取引費用がゼロで、近々森林をチェーンソーで切り倒そうと考えている森林利用者のみをターゲットとし、利用者の機会費用に関する完全な情報が得られるという、環境サービスの支払い(PES)の仮説上の"完全な"システムにおいてのみ、プロジェクト実施コストは機会費用と全く同じものになるだろう。もちろん、こうした想定は、きわめて非現実的であり、実際には、土地保有や他の前提条件が完全にPESを認めたとしても、PES制度のコストはそれよりもっと高くなる。
他の多くのREDD政策が利用可能である。政府は、現在の、また、将来の森林利用者に対してなんらの補償を行うことなく、林地転換のライセンス発行を止めることができるし、森林保護地域を設置することができるし、森林法規の執行を強化することもできる。その場合、プロジェクト実施コストは、機会費用よりも少なくなるであろう。
もうひとつの選択肢は、現存する土地の耕作を、森林の不法開墾よりも魅力的なものにする農業政策である。こうした政策は、政府にとってどのくらい費用がかかるものなのだろうか。プリンストン大学のBrendan Fisherが率いる科学者チームがNature Climate Change誌に発表した論文は、タンザニアの事例をもとにこの問題に取り組んでいる。彼らは、まず、農業および木炭生産から得られる現行の利益から REDDの機会費用を計算し、それが、二酸化炭素1トン当たり、3.20-5.50米ドルであることを明らかにしている。これは、ヨーロッパの炭素市場における現在の炭素価格よりかなり低い値である。
次に、この研究チームは、農業の生産力と木炭の効率性を高めることで森林の開発圧を取り除く政策を実施するのに政府やドナーが負う費用を考察している。彼らは、その費用を二酸化炭素1トン当たり4.60-9.40米ドルと見積もっているが、これは、先述の機会費用よりもずいぶん高い値となっている。
農業生産力と木炭の効率性を促進させることの主要な利点は、気候変動緩和と共に、食糧・エネルギー生産のための多様な目的を追求できることだ。また、この論文の著者たちは、農業生産力を高めることは、農業のための森林開墾を単に制限する純粋な保全プロジェクトと比較して、リーケージ(対象地域以外に森林破壊の場が移ってしまうこと)のリスクを減らす、といった議論を説得的に行っている。
森林減少を抑制するために農業生産力を刺激すること(Borlaug仮説)、あるいは、森林劣化を減らすために燃料の効率性を高めることは、ますます関心を集めているREDDの政策手段である。しかし、注意も必要である。CIFORによって行われた農業技術と森林減少の関連性に関する研究がこれまで強調してきたように、農業生産力の増加の直接的なインパクトは、多くの場合、農業のための森林開墾をより儲かるものにし、森林減少を抑えるどころか拡大してしまう。農業生産力の増加は、森林保全に対して積極的な帰結をもたらすために必要ではあるが、それだけでは十分ではない。イギリスで150年前に観察されたように、石炭のより効率的な利用は石炭消費を減少させなかった(Jevonsのパラドックス)。この点は、Fisher たちが注意を寄せているように、家庭エネルギー技術の改良がもたらす反動効果に対する現代の関心と共通する問題である。このことが示唆するのは、燃料の効率性を高める政策は、収穫のより良いコントロールと組み合わせて行われる必要がある、という点である。
さて、REDDにはどのくらいのコストがかかるのか?「それは状況によりけり」・・・これは面白みのない答えだが、私たちは、Fisherたちの論文などから、REDDのコストがどのような状況に左右されるかについてより優れた証拠を手にしつつある。第一に、それは、私たちが見ているのが誰のコストなのか、すなわち、社会一般なのか、政府なのか、地域の森林利用者なのか、あるいは、トレーダーなのかによる。第二に、それは、REDDの実施のためにどのような政策手段の組み合わせが選択されるかに強く左右される。全般的に、REDDが気候変動緩和に大きく貢献し得るとはいえ、我々は、REDDが数年前に考えられていたほど、低コストではないだろう、とする著者たちの意見に同意する。
[日本語訳:笹岡正俊(CIFOR) m.sasaoka@cgiar.org ]
CIFOR は、1997年7月、森林に関わる世界中の人々に向けた無料の情報提供サービスとして、このリストサーブを設立しました。過去のPOLEXメッセージはCIFORのウェブサイトで閲覧できます: http://www.cifor.org/online-library/polex-cifors-blog-for-and-by-forest-policy-experts.html.
CIFORの森林ブログ: blog.cifor.org